妊娠の脈について

【最終更新日】2026年1月20日
【筆者】岡田 匡史(国家資格・鍼灸師)
先日、不妊で来院されている患者さんから、
「妊娠の脈ってあるんですか?」
という質問をいただきました。
実はこの質問、一般の方はもちろん、鍼灸師の中でも詳しく知られていない、少し奥の深いテーマでもあります。
せっかくなので今回は、東洋医学的にみた「妊娠している可能性のある脈」について、できるだけ分かりやすくお話ししたいと思います。
※はじめにお伝えしておきますが、脈だけで妊娠を確定することはできません。
あくまで、体の変化を知るための一つの目安としてお読みください。
鍼灸師が行う「体の状態を知る検査」

鍼灸師は、施術を行う前に、
- 手首の脈に触れる
- お腹を触診する
- ツボを押して反応を見る
- 舌の状態を確認する
といったことを行います。
これは、あなたの体が今どのような状態なのかを知るためです。
病院でも、血液検査や心電図、尿検査、MRIなどを行いますよね。
東洋医学でも同じように、体の状態を知るための「検査」があります。
例えば、
- お腹が冷える
- 生理不順がある
- イライラしやすい
- 夜眠れない
といった症状があっても、症状だけで使うツボが決まるわけではありません。
脈診(みゃくしん)で何を診ているのか

脈・お腹・ツボ・舌などから情報を集めて、
- 免疫力が落ちていないか
- 血行不良が起きていないか
- 自律神経が乱れていないか
- 内臓が弱っていないか
といった点を総合的に確認し、体の根本的な原因を探していきます。
その検査の一つが「脈診(みゃくしん)」です。
妊娠の可能性があるときに現れる「滑脈(かつみゃく)」

東洋医学では、妊娠している可能性がある時に
「滑脈(かつみゃく)」と呼ばれる脈が現れることがあります。
古典である『瀕湖脈学』には、次のように書かれています。
「滑は陽脈、元気衰少や痰飲・宿食でも生じ、上は吐逆・下は畜血、脈滑で無病は妊娠である」
滑脈とはどんな脈?
滑脈は、指に触れたときに
「くるっ」とした丸みを帯びた感じがあり、玉や球が指の下を転がるような感覚のある脈です。
脈の見方(セルフチェックの方法)
ご自身で脈をみる場合は、
- 自分の右手首を
- 左手の人差し指・中指・薬指で診てみましょう
(東洋医学では、女性は右の脈を重視します)

中指を、手首の親指側にある骨の出っ張り(橈骨茎状突起)を目安に置きます。

そこから人差し指と薬指を自然に並べます。

※強く押さず、軽く触れる程度で拍動を感じてください。
なぜ「薬指」が重要なのか
薬指の位置は、東洋医学では「尺(しゃく)」と呼ばれ、子宮や卵巣などの生殖機能と深く関係する「腎(じん)」の状態が反映されやすい場所と考えられています。
そのため、
普段と比べて、薬指の下で滑脈を強く感じる場合、
妊娠の可能性を考える一つの目安になります。
滑脈=妊娠ではありません(注意)
ただし、とても大切な注意点があります。
滑脈は、妊娠のときだけに出る脈ではありません。
例えば、
- 風邪のあとで気管や気管支に炎症があるとき
- 痰が多い体質の方
- 飲食物が胃に溜まりやすい「水毒」のある方
などでも、滑脈が現れることがあります。
そのため、「滑脈がある=必ず妊娠」ではありません。
私自身の滑脈の体験として

私自身の経験として、印象に残っている出来事があります。
以前、来院された方の中に、
カナダで不妊治療を受けていた方がいらっしゃいました。
カナダでの治療がうまくいかず、日本に戻られてから、病院での不妊治療と並行して、鍼灸で体調を整えるために通われていました。
その方は、普段はそれほど強い拍動を感じるタイプではありませんでした。
ところが、胚移植をして数日後に脈を診せていただいた際、
右手首の脈(尺部)が、これまでにないほど力強く打っているのが分かりました。
正直なところ、これほどはっきりした変化のある脈を感じたのは初めてで、
「これが妊娠の脈なのかもしれない」と実感した出来事でした。
その後、病院の検査で妊娠していることが分かりました。
ただし、すべての方が同じような変化をすぐに感じるわけではありません。
- 移植後すぐは脈が弱く感じられても妊娠していた方
- 数日かけて、徐々に脈が強くなっていく方
もいらっしゃいました。
私の経験上、
移植後数日して、右手首の脈(尺部)が強く、かつ滑脈を感じる場合は、妊娠している可能性が高いように感じています。
まとめ(ポイント)

- 滑脈は「くるっ」とした丸みのある脈
- 特に右手首の薬指(尺部)で強く感じる場合、妊娠の可能性を考える目安になる
- ただし、妊娠以外の状態でも現れるため、確定判断はできない
脈診は、体の状態を知るための一つのヒントです。
もし妊娠の可能性を感じた場合は、必ず医療機関で正確な検査を受けてください。
鍼灸師でも脈診は難しい検査方法です。
あまり神経質にならず、
「今の体の変化を知る一つの目安」として、やさしく脈に触れてみてはいかがでしょうか。
妊娠や不妊のことで不安を感じている方にとって、
この記事がご自身の体と向き合うきっかけになれば幸いです。
必要な方には、鍼灸での体調サポートも行っています。


