はじめに

【記事改定日】2026年1月29日
【筆者】岡田匡史(国家資格・鍼灸師)
鍼灸院に来られる方の中には、
「検査では異常がないと言われたけれど、なんとなく体調が優れない」
そのような違和感を抱えている方が少なくありません。
東洋医学では、そうした不調を
五臓(肝・心・脾・肺・腎)の働きから捉えていきます。
今回は、その中でも質問を受けることの多い「脾(ひ)」についてお話しします。
東洋医学の「脾」と西洋医学の脾臓は、似て非なるもの

東洋医学系の鍼灸院では、
脈診・腹診・手足のツボの反応から、
五臓(肝・心・脾・肺・腎)のどこに問題があるのかを見つけていきます。
五臓に問題が起こると、身体にはさまざまな不調が現れるためです。
たとえば、
- 身体がだるい
- 食欲がない
- 下痢をしやすい
- 不正性器出血が起きる
- 味覚がおかしい
これらは、東洋医学では「脾」の弱りと関係すると考えられています。
そのため鍼灸師は、
弱っている五臓を見極め、
訴えられている症状と照らし合わせながら施術を行います。
しかし、
「脾が弱っていますね」とお伝えすると、
「脾臓が病気なのですか?」と不安に感じる方もいます。
実は、
東洋医学でいう「脾」と、西洋医学でいう「脾臓」は、名前は同じでも働きはまったく異なります。
今から200年以上前、
杉田玄白がオランダ医学の解剖書を翻訳し、『解体新書』を発行しました。
その際、日本で用いられていた東洋医学の「五臓六腑」の名称を、
西洋医学の臓器に当てはめて翻訳しました。
その結果、
「名称は同じだが、概念や働きは一致しない」
という混乱が生じるようになったのです。
東洋医学で脾の弱りを見つける方法
五行色体表から見つける

東洋医学では、万物を
木・火・土・金・水
の五つの性質に分類します。
この考え方を表にしたものが
五行色体表(ごぎょうしきたいひょう)です。
五行色体表を見ることで、
五臓に問題が起きた際に、
どのような症状が現れやすいのかを知ることができます。
五行の性質でみると、
脾は 「土」 に属します。
五行色体表の「土」の縦の列が、
脾と深く関係しています。
- 五味:甘
脾が弱ると、甘い物を欲しやすくなります。
無性に甘い物が食べたくなる場合、脾の弱りが考えられます。 - 五液:涎(よだれ)
脾が弱ると、涎が出やすくなります。
就寝中によだれが出る場合も、脾の反応の一つです。 - 五変:噦(えつ/しゃっくり)
脾が弱ると、しゃっくりが出やすくなります。
このように、
日常に現れる身近な症状から、
東洋医学では「脾」の状態を推測していきます。
お腹で見つける方法

東洋医学では、
お腹の状態から五臓の弱りを見つけることができます。
本来、赤ちゃんのように
ふっくらとしたお腹が健康的とされています。
しかし実際には、
- しこりのように硬くなっている
- 力がなく、ぐにゃぐにゃしている
- みぞおちが硬く、下腹部が軟弱
といったお腹の方も多く見られます。
これらは、不健康な状態のお腹です。
脾の弱りを見るポイントは、
お臍(へそ)の周囲です。
お臍周りを指の腹で軽く押したときに、
- 硬さを感じる
- 強い拍動を触れる
といった反応があれば、
脾の弱りがあると考えられます。
※強く押す必要はなく、皮膚が少し沈む程度の軽い圧で十分です。
東洋医学で考える「脾」の働き
消化・吸収をつかさどる

東洋医学では
「脾は運化を主る」
と言われます。
これは、食べた物を消化・吸収し、
栄養や水分を全身に運ぶ働きのことです。
この働きが低下すると、
- 食欲不振
- お腹の張り
- 下痢・軟便
- 倦怠感(特に手足)
- むくみ
- 体重減少
といった症状が現れやすくなります。
また、
「湿」や「痰」と呼ばれる、
体にとって好ましくない水分が生じることもあります。
(※脾・肺・腎が関係しています)
栄養やエネルギーを上へ運ぶ働き

脾には
昇清作用(しょうせいさよう)
と呼ばれる働きがあります。
これは、吸収した栄養やエネルギーを、
心・肺・頭部・顔面など、体の上方へ運ぶ作用です。
この働きは、
内臓を正しい位置に保つ役割も担っています。
脾が弱ると、
- めまい
- 胃下垂
- 脱肛
- 子宮脱
といった症状が現れることがあります。
血が漏れ出ないようにする働き

脾には
統血作用(とうけつさよう)
があります。
これは、
血液が血管から漏れ出ないように保つ働きです。
こうした場合も、
脾の弱りが関係していることがあります。
脾は「思」と関係が深い

脾と関係の深い感情は、「思」です。
考えすぎたり、思い悩みすぎたりすると、
脾の働きが弱くなると考えられています。
たとえば、
大事な試験や決断を控えていると、
食事が喉を通らなくなることがあります。
これは、
考えすぎによって脾の働きが低下した状態です。
逆に、
脾が弱ってくると、
考え込んだり、思い悩みやすくなることもあります。
脾の鍼灸治療について

このような場合、
内科・耳鼻科・婦人科・精神科などを受診される方も多いと思います。
東洋医学では、
これらの症状を「脾」の弱りから捉えることがあります。
そのような考え方から、脾の状態に目を向けながら、
体全体のバランスを整えていくことがあります。
その一つとして、
脾の働きに着目した鍼灸治療が
用いられることがあります。
おわりに
日常の中で、
「甘い物がやめられない」
「おへその周りが硬いと感じる」
といった小さな変化に気づくことがあります。
東洋医学では、
こうした身体の反応を、
五臓の働きの偏りとして捉えます。
「脾」という考え方が、
ご自身の体調や生活を振り返る
一つの視点になれば幸いです。
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参考図書
- 『東洋医学概論』医道の日本社
- 『わかりやすい臨床中医臓腑学』医歯薬出版株式会社
- 『中医学ってなんだろう』東洋学術出版
